But Beautiful/後藤輝夫&佐津間純
第20回日本プロ音楽録音賞ベストパフォーマー賞受賞アルバム!

映画「YUKIGUNI」のサウンドトラックにこのアルバムより10曲が使用され音楽が映画の雰囲気を暖かく包んでいます。2018年~全国劇場で公開中!
*日本最高齢バーテンダー井山計一さんのドキュメンタリー映画

2014年7月リリース
亀吉レコード(kame011)
3000円
後藤輝夫(sax),佐津間純(G)



第20回日本プロ音楽録音賞ベストパフォーマー賞受賞!!

電源、ケーブル類にこだわる亀吉音楽堂での録音。後藤輝夫(sax)と佐津間純(g)の「バットビューティフル」(e-onkyo)が、第20回日本プロ音楽録音賞ベストパフォーマー賞を受賞。音質、演奏ともジャズファン、オーディオマニアを十分満足させる出来。サックスの息づかいやギターのピッキングがまるで目の前で演奏しているかの様にリアルに再現。 聴けば聴くほど楽しめる。
 今回受賞された作品は、サックスとギターだけで、淡々とスタンダードナンバーを演奏する「But Beautiful」というアルバムの中の「Teach Me Tonight」という曲です。 ナッ ト・キング・コールが歌っていてお馴染みの曲なんですけれど、今回ハイレゾの配信ということで、192kHz/24bitという極めて広いレンジの中で、サックスとギターと、それから聴き手である自分自身も含めて、ひとつの同じ部屋の中でとても親密な関係で居合わせているという風な、音楽としてすごく上質な世界観を提示しているのではないかと思いました。 昨今はヘッドルーム目一杯まで詰め込むというような音楽が巷にあふれている中で、この編成でスタンダードナンバーをやるということ自体がすごくチャレンジだと思いますし、すごく新鮮だったと思います。

 部屋全体がいい感じで鳴っている中で、サックスのバルブの音とか、ギターの弦を擦る音とか、演奏者のイスの軋みまでが聞こえてくるような、とてもリアルでオープンなサウンドにすっかり魅了させられてしまいました。またこのアルバムは、亀吉音楽堂というスタジオで録音されたということですが、レコーディングにあたられたエンジニアの方の力量もかなりすばらしかったのではないかと思います。
(演奏家権利処理合同機構MPN 理事長 椎名 和夫)
*第20回日本プロ音楽録音賞受賞式にて
  1. Teach Me Tonight
  2. Moonlight In Vermont
  3. My One & Only Love
  4. Our Love Is Here To Stay
  5. But Beautiful
  6. Like Someone In Love
  7. The Things We Did Last Summer
  8. Round About Midnight
  9. Tres Palabras
  10. Body & Soul
  11. Little Girl Blue
  12. Danny Boy
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  • 録音スタジオの部屋に二人の男が向い合って座っている。ひとりはラッカーの剥がれたテナー・サックスを抱えている。洗いざらしのコットンシャツにジーンズを穿き、ハンチングを被っている。老眼鏡を掛けた耳元に短く刈った白髪が見える。もうひとりの男はギブソンのフルアコ・ギターを抱えている。サックスの男より大分若い。短めに整えた黒髪、小ぶりな黒縁の眼鏡を掛け、糊の利いた細いピンクのストライプの入った白いシャツの上に紺色のジャケットを着ている。

    「後藤さん、この曲知ってますか?」とサックスの男に譜面を渡す。
    「う~ん、メロディは知っているけど、演奏したことないな~。 佐津間くんの 得意な曲なの?」
    「僕の好きな曲です。これ後藤さんに吹いてもらうと、どんな風になるか聴いてみたいなと思って・・・。ちょっとやってみましょう」

    佐津間は笑顔で後藤の顔を見た。ギターを胸に引き寄せピックを握るとコンソール・ルームに視線を向けた。ガラス越しに「それでは、いきます。テーク・ワン」とコンソール・ルームからエンジニアの上田の声がする。ギターがイントロを弾き始めると、後藤は目を閉じたままマウスピースにゆっくりと口を付けた。

    女性ヴォーカリスト鈴木輪のレコーディング・メンバーとして、半年前にこの同じスタジオでふたりは出会った。スタジオで後藤のサックスの演奏に初めて触れた佐津間は、驚いた。「音はいいけれど、外れた音を平気で吹くし、どこに行くのか予想がつかない・・・」音楽大学で理論を学んだ佐津間は、サックスを吹く後藤の姿を「この人は何を考えているのだろう」と思いながらジッと追った。

    休憩時間にロビーのソファに腰掛けて話していても、後藤は音楽的な話はほとんどすることはなかかった。この前ライブでは綺麗な好みの女性が客席にいたので、心の芯に届くようにサックスを吹いていたとか、ニューヨークでタバコを買おうと店に入ると、あまりにも汚い格好だったので店主が溜め息を吐きながらパッケージの封を切り、タバコを一本差し出したとか。バンドのメンバーと曲の構成を話している時に、急に「ネパールのポカラで見た夕陽がさ、地球をそのまま飲み込んでいくようでね・・・」と、ネパールでの体験をウットリと語った りするのだ。

    佐津間は何度か一緒に演奏しているうちに、後藤がやりたいことが少し分かってきたように思えた。あくまでも「歌う」ことを心がけたサックス。コンガも叩く後藤の鋭いリズム感。「あの曲を、あの変なオヤジが吹いたら面白いだろうな」と知っている曲に後藤のサックスがメロディをのせている光景を、佐津間はあれこれ想像するようになっていた。

    「オレのサックスと佐津間くんのギターのデュオで、なにかやってみない?」ある日スタジオの外で佐津間がひとりコーヒーを飲んでいると、後藤が立っていた。「デュオで!」と言おうとして言葉をのんだ。後藤は笑っていたが、目は真剣だったからだ。
    スタジオに戻りふたりで"Teach Me Tonight"をやってみた。後藤がスローテンポでメロディを吹き始める。佐津間がベースラインを入れたコードをつけていく。ギターとのデュオなので、後藤はサブ・トーンを使い、ゆったりと歌いあげる。ワン・コーラス終りかけると、佐津間に「次はギター・ソロだよ」と目で合図する。メロディとコードを合わせたギターのソロに後藤が背中を撫でるようなオブリガードを入れてくる。サビから後藤のサックスが受け継ぎ、夜の闇に静かに消えるように曲は終わる。演奏が終わるとふたりは目を合わせ、声には出さず心の中で同時に「イェ~」と叫んだ。

    その演奏をコンソール・ルームで聴いていたエンジニアの上田が、慌ててスタジオのドアを開けて言った。

    「いいじゃない!これレコーディングしようよ!」

    ●登場する人は実存しますが、話はフィクションです。                       
    金井伸夫(茅ヶ崎 LUSH LIFE)
  • 日増しに深まりゆく秋の午後、窓越しに眺める木々の黄葉が折からの冷たい雨に打たれている。部屋には珈琲の香りとともに、スタンダードナンバーの心地良いメロディーが静かに漂う。慌ただしく過ぎ去る日々を暮らす者が「生きている喜び」を実感するのは、こんなつかの間のひとときだ。
    本作"But Beautiful"は、全11曲が後藤輝夫のテナーサックスと佐津間純のギターのみによるデュオという、たいへん珍しいアルバムである。
    本アルバムでは後藤の情感豊かなメロディーラインに、佐津間のギターが時に軽快にアクセントをつけ、時には主旋律を奏でるという具合に見事なコラボレーションを見せ、聴く者を飽きさせない。
    ここで演奏される曲はいずれもよく知られたスタンダードナンバーであるが、中にはよくぞ取り上げてくれたと思う曲もある。
    "Moonlight In Vermont"と"The Things We Did Last Summer"の2曲がそれだ。
    ヴァーモントの月は映画ホワイトクリスマスの印象的なシーンでも歌われるが、艶のある歌声のマーガレットホワイティングの名唱も捨てがたい。ここではギターによるイントロからサックスのクロージングまでさながらヴァーモントの丘の上で月明かりを浴びているような気持ちにさせてくれる。
    後者は英国出身、マリアンマクパートランドのピアノトリオによる気品高くクールな演奏がお勧めだが、可憐なバラードであるこの小品を後藤のテナーは美しい音色を響かせ、まさに「珠玉のような」出来栄えに仕上げている。
    概してジャズメンにありがちな「自己のプレイに陶酔したような演奏」や「テクニックばかりを見せつける味気ない演奏」の両極から程よい距離に身を置いた二人の掛け合いは、スタンダードを愛する者にとって実に好ましい。

    本アルバム中、白眉ともいえるのは、タイトル曲にもなっている"But Beautiful"と"My one and only love"であろう。
    いずれの曲も、スタンダードはこう演奏してほしいという聴き手に気持をよく理解した心配りが感じられる。 それでありながら、二人の個性は遺憾なく主張されており、その点、イージーリスニングとは一線を画す。そのあたりのさじ加減は絶妙という他はない。
    後藤のサックスには幾多のライブで鍛え上げられた確かな存在感が伝わってくる。
    一方、佐津間の抑制の利いたギターにはどこかジムホールの音色を想い起こさせるものがある。
    たとえばジムホールがビルエヴァンスと共演したVerveのアルバム"Intermodulation"を聴いてそう思う。
    本作中、1曲だけ忍ばされたラテンの名曲"Without you"もこのアルバムにしっとりとした彩りを添えている。
    そうしてギターの美しいヴァースから入るブルージーな1曲"Little Girl Blue"が一枚のアルバムを静かにしめくくる。テナーの歌うようなフレージングが懐かしい1枚のアルバムを思い出させてくれた。
    ブレンダリーのブルース曲集"Reflections"。少女のゆれ動くブルーなな心情を若き日のブレンダは余すところなく表現していて愛らしい。本アルバムは都内にある小さなスタジオ(亀吉音楽堂)で制作されているが、録音装置、録音技術ともたいへん優れており、細部の音質までこだわりを持ち、ジャケットデザインも含めていわば手作りともいえる温かみが感じられることも付け加えておこう。(松本光正 2012年11月30日)
  • プロフィール
  • 後藤輝夫 (Sax)
    後藤輝夫は、外国船も寄航する日本海に面した港町山形県酒田市で1953年に生まれ育った。
    高校を卒業して東京に出て芸術系の大学で写真を学んでいたが、大学では写真よりもジャズ研で毎日サックスを吹いている時間の方が長かった。やがて、ライブハウスに顔を出すようになり、プロのジャズ・ミュージシャンに混じり演奏するようになった。
    その当時全盛をきわめていたフォーク系、ニューミュージック系ポップス系の歌手のツアーやレコーディング参加するようになる()と、カメラでなくサックスで身を立てることになった。また同時に自分の原点のジャズの活動も精力的に行っている(☆☆)。

    参加したミュージシャン:
    あがたもりお、今村祐司 、寺下誠、南佳孝、吉田美奈子、加山雄三、ハイファイセット、松山千春、アリス、サザン・オールスターズ、郷ひろみ、カルロストシキ、コロッケ、高中正義、尾崎豊、大橋純子、杉山清貴などアーティストのツアー及びレコーディングに多数参加。

    ☆☆
    1995~1988年まで、N.Y.在住のべーシスト中村照夫率いるライジング・サン・バンドのメンバーとしてN.Y.タウンホールや、バードランドに出演
    師と仰ぐスタンリー・タレンティンと共演する。
    ハモンド・オルガンのロニー・リストン・スミスと共演した"GO TO"や、ソウルの名曲をカヴァーした"GO AHEAD"等、自己の作品をクラウン レコードからリリースする。
    2004年 "ごめんね"「TOKYO NIGHT BEAT」をホワッツニュー・レコードよりリリース。
    2007年パーカッションの今村祐司とのデュオ・アルバム「BEAT FROM THE EARTH」をリリース。
  • 佐津間純(さつまじゅん)
    1982年に古都鎌倉で生まれ育つ。
    少年の頃から音楽が好きで、13歳でギターを手にする。
    音楽大学に進み、更に渡米しボストンのバークリー音楽大学でジャズ・ギターを学ぶ。
    2006年に帰国し、日本での演奏活動を開始する。
    2013年リーダー・アルバム"JUMP FOR JOY"をリリース。
    現在、東京、神奈川を拠点に演奏活動をしている。
    オーソドックスなジャズギターのスタイルを貫き、ホットで美しい音色で現在注目されている若手ジャズ・ギタリストの一人。